ワンバイブスでは、言語障害の方たちもボイストレーニングを受けています。一番割合が多いのが吃音(どもり)の生徒さんたちです。
その男女比なんですが、ほとんどが男性です。(当教室では、過去には女性は一人しかいらっしゃいませんでした)だからと言って、受け入れは男女とも受け入れておりますのでご安心ください。
今回ご紹介する内容は、他の言語障害に効果があることの保証はいたしません。また、他社や他団体による吃音との向かい合い方とは、異なる内容となっている部分があります。これは、あくまでも当教室でのことだとご理解ください。
実際、吃音の生徒さん方と試行錯誤をしてシラバスやカリキュラムを積み上げてういったものですから、生徒さんにとっては効果があり、向かい合えるようになったりしています(改善という言葉は使わないでおきます)。そんな中で、吃音ではない方にも適用できることを発見したのです。
一体どんなことをやったのでしょうか?
その背景には、吃音の生徒さん方のご協力があったのは言うまでもありません。この記事は吃音の生徒さん方の許諾を得、氏名表示はせずに書いています。
VT法をボイストレーニングに取り入れよう♪
日本語教育の教授法の中でVT法という教授法があります。
【VT法(ヴェルボ・トナル法、ベルボ・トナル法とも)】
言語を習得する際に聴覚だけに頼るのではなく、言葉の持つリズムやイントネーションを大切にし、視覚・触覚など他の感覚を活用しながら言語を習得することに重点をおいた指導法である。このヴェルボ・トナル法は、ザグレブ大学のペタル・グベリナ教授が提唱し、日本では上智大学のクロ−ド・ロベルジュが紹介した。
外国語の習得のために教育現場だけではなく、聴覚に障害を持った人々が言葉を習得するために聾学校・病院など多くの施設で利用されている。
●引用●フリー百科事典『Wikipedia(ウィキペディア)』言語音と身体運動とを連動させ、正しい発音時における筋肉の緊張と弛緩を体感させながら指導する点に特徴がある。特にリズムやイントネーション感覚を掴む。
●引用●アルク『日本語教育能力検定試験に合格するための用語集』
このVT法とシャドーイング(プロソディ・シャドーイング)をブレンドさせた、そんなメニューを考えてみたんです。
【シャドーイング(shadowing)】
モデル音声を聴きながら即座にすぐ後を追いかけるように復唱する方法。シャドーイングは、プロソディ・シャドーイング、マンブリングを始めいくつかの種類に分かれる。
発話シャドーイングは1950年代後半にLudmilla Andreevna Chistovich率いるLeningrad Groupによって最初に研究手法として採用された。 それは、音声言語知覚や吃音症の研究において使用された。●引用●フリー百科事典『Wikipedia(ウィキペディア)』
ボイトレとシャドウイングの蜜月関係あなたは、シャドウイングという方法をご存知でしょうか? 語学学習の中では結構有名な方法なので、知っている方も多いのではないでしょうか? 今回は、このシャドウイングの練習をボイトレと絡めると、と~っても役に立つことをご紹介しましょう。 シャドウイングとは♪ シャドウイングとは、モデルの音声を聴きながら...
室長は、発音、リズムなどの音声指導においてVT法の考え方というのは大切だと判断。それが今回のことで実感しています。
吃音の生徒さんと作った珍メニュー
後の項目でも書きますが、吃音の生徒さんは、インプットする声の要素と、アウトプットする声の要素が一致していない人が多いんです。というよりも全員がそのような傾向でした。
いろいろと試してみた中で今回は3拍語を使ってご説明しましょう。
◆実験◆
意味不明の音をランダムに3拍で並べます。それを日本語アクセントの型、
頭高型→中高型→尾高型→平板型
の順番で発話してもらうのです。すると、尾高型を中高型に間違えて言ってしまうのです。尾高型でインプット、その流れでアウトプットしなければらないところを、尾高型でインプット、中高型でアウトプットしてしまうのです。次に多かったのが頭高型→中高型でした。
順番を変えてみるとどうなるんでしょう?
それはとても良い気づきです。平板型から始めたり、中高型を始めに持ってきたりして16通り試してみました(本当はもっと組み合わせを試してみたかったんですが)。そんな中で間違えてしまうトップ5が
- 尾高型を言う時に中高型に間違える(順序問わず)
- 頭高型→中高型の場合、中高型を平板型で言ってしまう
- 尾高型→平板型の場合、平板型を尾高型で言ってしまう
- 平板型→尾高型の場合、尾高型を中高型で言ってしまう
- 滑舌の悪さは尾高型に顕著に表れる
もちろん条件を変えたり拍数を2拍語、4拍語にした場合には変わってくると判断しています。
強さと高さ、そして弱さと低さ
音の高い部分は自然と強くなりますし、音の低い部分は自然と弱くなります。これが吃音の生徒さんには、インプットは出来ていてもアウトプットしにくかったりします。それで、レッスンでは発した音声を録りながらフィードバックしています。
例えば
「ならだ らだな だなら」(頭高型)
「ならだ らだな だなら」(中高型)
「ならだ らだな だなら」(便宜的に尾高型)
「ならだ らだな だなら」(便宜的に平板型)
太字は音が上がってアクセントとして上がる部分です。調音点は歯茎で同じですが調音法(調音様式)が違うんですね。
フィードバックが済んだら次はVT法を取り入れながらの発話です。太字の部分で両腕を広げてみたり揚げてみたりするのです。
それでも連発(吃音の症状のうちのひとつ)になりそうな部分が出てきます。
そこで、このメニューをできる人が模範音声を少しゆっくり目に録音。別にトレーナーでなくても構いません。テンポは四分音符80~100の間にしておきます。
その音声を聴きながらVT法をしながらプロソディ・シャドーイングをするのです。すると、スムーズに言えてるではありませんか!!
VT法はちょっとしたコツを伝えたら、後は生徒さん自由にやってもらってOK。思い切りやってください。シャドーイングはマンブリングではないので、あまりブツブツと言わないようにしましょう。
歌うこと以外の引き出し―唯一絶対なメニューは存在しない
歌を歌っている時には吃音の症状は出ないと言われています。昔からそのように言われていますし、実際吃音でも歌のレッスンをしている生徒さんもいらっしゃいます。ただ、歌が嫌いだと拒んでいる生徒さんがいるのも事実です。音程がとり難いことが主な理由です。
歌をスモールステップ方式でやって頂くか?今回のこのメニューをやって頂くか?引出が増えて楽しくて仕方ありません。それも生徒さんとの協力のおかげ。それが生徒さんその人独自のメニューにもなるのです。
これらVT法とシャドーイングのブレンドメニューが、吃音の症状でない生徒さんにも試してみたら、とても役に立つことが分かってきたのです。(当教室比)(^^♪