今回は、話しことばボイトレとイントネーションについてです。
イントネーション(抑揚)については、以前こちらの記事で採り上げていました。
プロソディ(韻律)といって声に関わる要素のひとつであること。そんなことを載せていました。
今回は、少し深掘りをしてイントネーションの働きを書いていきます。
これは実際声に出してやってみると、難しいかもしれません。
なぜなら、プロソディに関わる音声の修正は、インプットできればアウトプットが簡単。またはインプットの先がそのままアウトプットとは限らないからです。
どういうことかというと、これまでの話し方の癖が邪魔してしまうからです。これは歌い方の癖を直す、または治すことよりも難しいでしょう。
あなた自身では聞こえたとおりに言っているつもりでも、そうでない場合があるんです。人は無意識に自分の読み方で聴いて声を発しているんです。
例えば、地方出身者の方言からくるアクセントがそれにあたります。
この話をすると、日本語教育能力検定試験を受けた方、または今年受験される方は、
といった答えが返ってくるでしょう。多分・・・(笑)
▼こちらを参考にしてください
まず、イントネーションの働きを知りましょう。
次にイントネーションを変えることで、同じ文でも別の意味が隠されていることを知ってください。
イントネーションの働き♪
文字の上のある山のような曲線、これがイントネーションのラインでこのように音声が流れていくと考えてください。日本語の「へ」の文字に似ているため、アナウンサーの中には、「へ」の字のラインと言う方もいらっしゃいます。
イントネーションには大きく二つの働きがあります。上の図と照らし合わせながら読んでいってくださいね。
1.話し手の感情や意思、想いを表す
イントネーションといえば、こちらを思い浮かべる人の方が多いのでは?
図の( )内は、例えばこんな気持ちでという例示列挙です。
当然、表示のイントネーションで別の感情を表すこともありますからね。
まあ、感情を表すという点では分かりやすいかもしれません。
ただし、3番目に注意してください。
「バス」というのはアクセントが頭高型です。
バ(高)
ス(低)が(低)
となります。
なので、平叙文で言うとなんてことはないんです。ところが疑問文となってイントネーションが絡むと、下の表のように
バは高いところから入る→スは低いところに移りそこから上げていく
これが共通語のアクセントとイントネーションの流れです。
高 | 低 | ⤴ | |||
b | a | s | ɯ | ː | ? |
バ | ス | ー | ? |
*表内の記号は、IPAの発音記号表記。
これがさらに地域方言だと、アクセントが
ス(高)
バ(低) が(低)
といった尾高型になり、そこにイントネーションと絡むと
低 | 中 | 高 | ⤴ | ||
b | a | s | ɯ | ː | ? |
バ | ス | ー | ? |
何だか外国人の日本語学習者が話すような音調にもなります。
他に同じようなニュアンスの単語を探してみます。
ねこ(猫)が、そら(空)が、まつげ(まつ毛)が、
くくるが〈共通語では頭高型〉→たこ焼き屋w
などのはじめの拍を高くする頭高型(あたまだかがた)アクセントの語に見られる現象です。
余談ですが・・・
アクセントの型を見分けるときは、名詞の後に必ず「が」「を」の格助詞をつけてください。
例えばですね、
いもうと(妹)、さくら(桜)
の場合、格助詞をつけないとアクセントの核も分かりませんし、型の判別がつきません。格助詞をつけてみると違いが分かるようになります。
いもうと(妹)が=助詞で下がる尾高型(おだかがた)
さくら(桜)が=助詞までそのままの高さの平板型(へいばんがた)
▼アクセントとイントネーションの違いがイマイチ分かりにくい方もこちら
話す・読むボイトレ-方法はプロソディの練習から
2.音の高低で意味を仕分ける
これは、意味の切れ目(2-1)と意味のつながり(2-2)をつくります。
僕たちが声を使って言葉を発するとき、意味のまとまりごとに声の高低を結びつけて相手に伝えているのです。
意味のまとまりはひとつの音の山となります。これを小さな山として、文全体のイントネーションも緩やかな大きな音声の山になります。
つまりこれがイントネーションなのです。(図. イントネーションについて)
こんな感じです。
さて、上の図とは別の例を示しましょう。次はどうでしょう?
ふたつの意味があるのを考えてください。
●白いブラウスのシミ
これは、ブラウス(ブラウスの色は分からない)に白いシミがついていたら
①白い ブラウスのシミ
となり、
白いブラウスにシミがついている(シミの色は白ではない)のなら
②白いブラウスの シミ
となります。
これも、意味のまとまりはひとつのイントネーション(音の山ライン、「へ」の字のライン)で言うことが大切です。相手が聞いた時に自然に聞こえることが大切です。
日本語は、修飾語が前に前にくっつく膠着語(こうちゃくご)の働きがあります。膠着語としてくっつく連体修飾語は、いろいろと大変ですね。
発話の仕方なんですが、言葉の話し始めでは、少し高めから入るとよいでしょう。
いつものクセで低めから入ると、話しことばの音の幅(音楽でいうところの音域)が狭くなります。
その結果、低い音でもごもご。何を言っているのか分からない。滑舌が悪い状態になってしまうのです
3.意味を際立たせる
これは、プロミネンス(卓立)と呼ばれているプロソディのひとつです。
話し手の意図によって、際立たせたい言葉を高く強めにする言い方です。
プロミネンスで覚えておくこと、それは旧情報と新情報です。プロミネンスは新情報におくのが伝わる自然な言い方です。
マゼンタの色文字部分が新情報です。
イントネーション二つの意味
さあ、ここからが本題です!
文全体のイントネーションも緩やかな音声の山になります。大きな山の中にあるフレーズ単位での小さな山。「へ」の字のラインを変えていく練習です。
フレーズ単位ではなく、文の単位でやってみましょう。
問題 以下の文には二つの意味があります。分かりますか?
ちょっと考えてみてください。
●阿佐ヶ谷でもらったお菓子を食べた。
これは、お菓子を阿佐ヶ谷でもらったのなら
①阿佐ヶ谷でもらった お菓子を食べた。
になります。ふたつの音の山ライン、「へ」の字のラインが出来ますね。
お菓子どこでもらったかという情報よりも、お菓子を阿佐ヶ谷で食べたということを伝えたい場合には、、「阿佐ヶ谷で」を音の山ライン、「へ」の字のラインで言います。次に「もらったお菓子を」でひとまとまり、「食べた」で小さな音の山ライン、「へ」の字のラインを作りましょう。
②阿佐ヶ谷で もらったお菓子を食べた。
となります。
●ドイツで研究した内容を発表した。
ドイツに行ってそこで研究した内容なら、
①ドイツで研究した内容を 発表した。
となります。
さらに、研究した場所がドイツ以外の国、発表した国がドイツなら、
②ドイツで 研究した内容を発表した。
となります。
阿佐ヶ谷で~の考え方と全く同じですね。
●彼は研究室にあるレポートを持っていった。
これはいかがでしょう?
「研究室においてあるレポート」という意味で言うなら、
①彼は 研究室にあるレポートを 持っていった。
また、「とあるレポートを研究室に(まで)持っていった」のなら、
②彼は研究室に あるレポートを持って行った。
となります。実際に声に発してみてください。
ポイントは音の山ライン、「へ」の字のライン。大丈夫でしょうか?
意味のまとまりはひとつの音の山ということを忘れないようにしましょう。
宿題 レッスンでもよく使っている文です。ちょっと長いかな。
●室長は赤信号を無視して走ってきたバイクにひかれそうになった!
これを次回までの宿題とします(笑)
上の問題が分かれば、たぶん大丈夫です!
【参考】
秋山和平 「あなたが生きる話し方」 NHK出版
まとめ 意味どおりの発話から語用論へ
今回の内容は、特にアナウンサー志望や本格的に朗読をやりたい方。マスコミ系志望の学生さんにとっては重要なことです。
最近、また流行りつつあるフレーズの終わりを上げるゆすり音調のようなアニメ声が流行っているから?でしょうか。
なんてやっていると、意味をとり違えてしまうかもしれません。
しかし、こんなゆすり音調で言ってもコンテクスト(文脈)に添っていれば分かるかもしれません。次回は、言葉の表現の背後に隠されている意味を会話の状況から探る内容(語用論)にも触れてみます。
どんなにイントネーションの山をしっかりと発話したところで、分からない。そんな内容もお届けしましょう。
冒頭にも書きましたが、話し言葉は、まずその人の話し方の癖が出るので、実際にやってみるとむずかしいかもしれません。
でもね、知っておいたり、使い分けできることも強力な武器になりますので、是非やってみてくださいね。