コーラスで「ウーアー系」って言いますよね。
歌詞をハモる「字ハモ」と違って、白玉として伸ばす音が「ウー」や「アー」の音です。
日本語の母音の数の復習から入り、「ア」と「ウ」の、特に舌の位置についてのこと。
歌への使い方によって、母音の響きが格段に違ってくるといったお話をお届けいたしましょう♪
日本語の母音はいくつありますか?
と訊かれたら、ほとんどの方が
と答えると思います。
実は、5つというのは共通語の母音の数であって、地域方言の場合はこれに当てはまりません。
以前、こんな記事を書きました。
5つの母音体系
世界の言語の中で日本語と同じ5母音体系の言語は、スペイン語です。
ローマ字が最初の表記に使われたのはラテン語です。
ラテン語が5母音の言語だったからという説が有力らしいです。世界の言語には5母音体系の言語も多いんです。
アラビア語は3母音体系の言語と言われています。それは/a//i//u/の組み合わせが一般的です。
日本語の場合、英語と比較すると母音の数は少ない言語です。
ただし、奈良時代の日本語の母音の数は、万葉集に用いられた文字の研究から8母音体系だったそうです。
今でいうところの8母音体系といったら、愛知県名古屋市を中心とした尾張地方で、8母音体系を使っています。
共通語の母音は5つ・・・ではなかった!?
・・・なんて書くと驚きますか?
音の音色で言うと結構たくさん作れるんです。
【音素】意味の違いを区別できる音の最小の単位のことをいいます。
例えば、酒と鮫は、
酒/sake/ 鮫/same/で違う意味を持っています。[k]と[m]の音の違いによって意味を区別することが出来ます。なので/k/と/m/は、それぞれ日本語の音素といえます。
上の母音の発音チャートをご覧ください。
(*図、及び本文中の[ ]内は、IPAの発音記号表記)
日本語の母音(特に共通語の場合)は、母音を発するときに、舌の位置が赤字の発音記号の範囲になります。
元々口の中の事なので、判断しにくいし、分かりにくい部分もありますね。
日本語は、口の中であまり舌を動かさない言語です。
ただし、ひとつの母音に対して意味の守備範囲は広い。そう感じています。
【引用】母音の数と発する順番 ←こちらをクリック
え?同じ音じゃんって?
確かに、口を横に開いて「あ/æ/さがや」といっても、
曖昧に開いた口で「あ/ʌ/さがや」といっても、
阿佐ヶ谷には変わりありません。違う音(異音)としては認識しないんですね。
英語の場合はどうでしょう?
pat/pæt/(ゴルフのパット、軽くたたく)とpot/pɑt/(ポット、つぼ)だと、音が変わるので意味も変わります。
上の【引用】も原因のひとつかもしれません。
特に[a](ア)と[ɯ](ウ)については、音の守備範囲は広く、いろんな音色を作ることが出来ます。ひとつの母音に対しての意味の守備範囲が広いともいえます。
[a]と[ɯ]は特に守備範囲が広い
上の図をご覧ください。
「ア」の守備範囲
まずは、「ア」から確認しましょう。
よく、ボイトレで舌を柔らかくさせる練習に使っているのが
カキャ
です。リズミカルに言ってみてください。
カキャカキャカキャカキャ・・・・(ドレミファソファミレド~)
ほ~ら♪言えなくなってきましたね~(笑)
これがスムーズに引っかからずにいえるあなたは、「ア」の母音の響く守備範囲が広いということになります。
「カ[ka]」と言うときの母音と、「キャ[kja]」と言うときの母音では、母音そのものの音色が違って聞こえませんか?
ゆ~っくり発音しましょうね。
というあなたは、先ず録音しましょう。
自分の声を聴く、モニターする事は大切です。
▼自分の声を聴くコトについてはこちら
さて、いかがでしょう?
「カァ~」と伸ばした母音は、やや暗めの音色です。これは後舌気味の母音で[ɑ]
「キャ~」と伸ばした母音は、少し明るめの音です。これは前舌気味の母音で[a]
ちなみに、名古屋弁の
の「みゃ~」の母音は、「ア」と「エ」の中間で、[æ]という音です。
「ウ」の中舌化
続きまして、「ウ」です。
これも確認から入っていきたいんですが、
靴(くつ)
と言ってみてください。
「く」の母音よりも「つ」の母音の方が、同じ「ウ」なのに少し前に出ている感じがしませんか?
体感しにくかったら、
「くーつー」
と母音を伸ばしてみましょう。
これで分かりにくかったら、次の単語ではどうでしょうか?
屑(くず)
これも
「くーずー」
と伸ばしてみましょう。
「く」と言っている時の母音よりも、「ず」を言っている時の方が、舌の位置が少し前寄りになっていませんか?
日本語の音の中で
「ス・ツ・ズ・ヅ」と表記される音については、本来、後舌で発音されている「ウ」が少し前寄りに変わります。
これを中舌化といいます。
発音記号[ɯ]の上に[¨]がついている記号が中舌化の「ウ」です。
この「ウ」、つまり共通語として言われている日本語の「ウ」は、唇を丸めない非円唇母音です。
日本語の母音の中で、唇を丸める円唇の母音は「オ」だけです。
「ウ」の話に戻りましょう。
実はこの「ウ」、非円唇(僕は、生徒さんに簡単に平口とか、平たい口と言っています)の口の形で歌おうとすると、声が出にくい場合が出てきます。
歌っていて「ウ段」が出にくいあなたへ
ここからは、実際にどのように歌に活かしていくか、についてお話しましょう。
「ウ」の音は、他の母音と比べるとピッチが低く聞こえる音です。
先ずは唇を丸めて声を出しましょう。もちろん前後の音に気をつけながらです。
意外と丸めているつもりでも丸めていない人が多いのも事実です。
タコのような口でもよいのですが、唇に力が入り過ぎるのもよろしくありません。
基本は、やはりリップロール(リップトリル)ですね。
声帯との関係性もありますが、唇を丸めた円唇の「ウ[u]」にすると、声の響きが変わってきます。
太めの声になる人もいるでしょう。
次に舌の位置を変えていきます。ここでも上手くできると声の響きが変わってきますよ。
実際の歌中でやってみたいときは、
✔ ス・ツ・ズ・ヅの音の場合は、中舌化とした舌の位置を意識
✔ さらに唇を丸めてみる
✔ それ以外の音なら[ɯ]、唇の丸めも意識
ただし、音符の長さ、フレーズのどの位置にあるのかで音の処理が変わってきますので、歌詞をひらがなで書きながら吟味しましょう。
歌の研究、吟味も大切な練習の柱となります。