声を磨くことで、よい影響を与えるといったことは、実際にボイストレーニングを続けていれば、歌うことや発語発話することに関わらず体験できることですよね。
これは皆さん頷けると思います。
さて、
耳を鍛えても良い影響を与えるんです!
と言ったらどうでしょう?
今回も聴覚、耳のお話です。
今回は、特に耳のことにフォーカスして、耳が良いということの意味を多面的にとらえていく。そんな内容をお届けしましょう。
耳が良いとは・・・?
まず初めに、きくの3種類を復習しておきましょう。
▼「きく」の3種類とは?
この3つのきく(聞く、聴く、訊く)のバランスをとるのに大変です。
あ、忘れてました。もうふたつの「きく」。
それは、3つの「きく」が出来たときに初めて出てくる
4つ目、5つ目の「きく」・・・
効く=効果がある。効き目がある。
利く=利益となる。
の「きく」です。
これ、冗談ではなく本当に理解していただきたいことなんです。
自分が感じる声と人が感じる音声(気導音と骨導音の復習)
声というものは、自分が感じる声と、人が感じる声とは違います。
よくある例なので耳にしたことがあるかもしれません(笑)。
歌でも話し声でも自分の声を録音して聴いたら、、、
なんてことありませんでしたか?
これは、空気中を伝わる声と、自分の身体の中で振動している声がほぼ同時に感じられるからというのは大丈夫ですね。
ところが、人が聴く声は空気中の振動でしか感じることしかできません。
以前、鼓膜を振動させ聴覚神経(内耳)に伝わる気導音のことは書きました。
気導音と骨導音のことが曖昧な方は、こちら。
インプットを疎かにしない
人の耳は、だんだん聞こえなくなるのです。
すみません。コレだと誤解を与える言い方なので訂正します。(2017年11月3日現在)
もともと僕らは、生まれた時には特定の言語音を話すようにはできていません。
おぎゃぁ♪とAの高さの音で生まれたその日から、
とか
なんて言われて、生まれるわけではないんです。
母語を習得していく途中の段階で、例えば日本語なら、日本語の聞き取りに必要な音以外を遮断してしまうんですね。
そして、だんだんと母語である日本語を理解するために必要ではない音の違いを無視するようになっていくんです。
これは、聴き取れないという退化ではなく、日本語を効率よく聴き取りに使うために必要なことなのです。
別の言い方をすれば、
生まれてから生後6カ月ぐらいには既に耳の機能は完成されています。
それ以降は、周りの環境によって聞こえなくなっていきます。後天的なのです。
でも耳の役割は、人の成長にとって切っても切れない関係にあるのです。
ボイストレーニングというと、良い声を出そうとアウトプットばかりを考えがちです。しかしインプットとアウトプットのバランスが取れてこそ、あなたならではの声になれるのです。
インプットの重要性をもっと現場のトレーナーにも、習っている生徒さんにも意識をして頂きたいです。
よく言われている耳の特徴
人の可聴範囲(人が聞き取れる音の範囲)は、
20Hz~20kHz(20,000Hz)
といわれていますね。
ただし、環境によってこの範囲(帯域といいます)全てが聞こえるわけではないのです。
と言われたら、あなたはどう思いますか?
1.聞こえない音がある
2.聞きたくない音には耳にフィルターをしてしまう
1.聞こえない音がある
聞こえない音があるということは、聴き取りやすい音の帯域があるということです。
年齢によって
日本人という同じ民族同士でも、若い人たちに聞こえるイヤな帯域で鳴っているモスキート音。これが年齢を重ねると聞こえなくなるというという話を聞いたことがあるでしょう。
モスキート音
元々はイギリスのCompound Security Systemsという企業が開発したセキュリティシステムだそうです(2005年~)。
飲食店や書店などで長居する若者の退店を促したり、万引きしようとする人をけん制する目的で使用されるそうです。
【引用】 スタジオラグへおこしやす—バンド・音楽・楽器のお役立ちマガジン—
日本でも実験的に東京都足立区の区立北鹿浜公園で一時期使われたようです。
最近では携帯電話の着信音にして、先生に気付かれないように生徒がメールのやりとりをしているのに使われています。
【リンク】 健康な心は健康な体から
民族によって
それぞれの言語によって聞き取りやすい帯域(特徴のある周波数帯域)があります。
例)
日本語 125Hz~1.5kHz
英 語 2.0kHz以上
米 語 800Hz辺り~3.8kHz辺り
ドイツ語 125Hz~3.0kHz
フランス語 125Hz~300Hz/1.0kHz~2.0kHz
スペイン語 125Hz~500Hz/1.5kHz~2.5kHz
イタリア語 2.0kHz~4.0kHz
ロシア語 125Hz~8.0kHz
上の数字が音を聞き取る感度がよい範囲(帯域)ということです。
言い換えると自然に耳に入ってくる音ということですね。
フランス人やスペイン人は聞き取りやすい音の範囲が二つに分かれているのがすごいですね。
また、ロシア人は聞き取りやすい音の範囲が広いです。
面白いのが英語と米語。同じゲルマン系の言語なのに英語は高い方へ、米語は低い方へと音の範囲が伸びているんですね。
また、英語とフランス語では、帯域がかぶっている部分がありません。
一説によると、英仏戦争等で両方の民族が仲が悪い原因のひとつがここにあるらしいので面白いです。
上に挙げた帯域以外は、聞き取りにくい音なのです。
実はこれが、発声にもかかわってくるのです。
興味をもたれたあなたは、こちらのサイトを参考にするとよいでしょう。
2.聞きたくない音には耳にフィルターをしてしまう
これ、逆に言うと、
聞きたい(聴きたい)音の場合、耳にはフィルターがかからない
ということです。
二つの例を出しましょうか。
カクテルパーティー効果
あなたは居酒屋に数人で飲みに行きました。
そこのお店、結構繁盛していて、中に入るとにぎやかです。
それでも、一緒に飲んでいる話し相手の声は聞き取れ(場合によっては聴き取れ)ますよね。
また、立食パーティーの時に会話をしている人ではない全く別の人から、自分の名前を呼ばれた時とか。
または、自分が必要としている情報が耳に飛び込んだ時には、もはや相手からの話は関係なく、必要としている情報に耳を傾けてしまいますよね。
これをカクテルパーティー効果といいます。
個室居酒屋は、このカクテルパーティー効果を逆手に取ったコンセプトでしょう。
マスキング効果
続いてマスキングです。
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マスク=覆いかぶせること
画像処理(レタッチ)や映像処理の分野でもこの用語は使われていますが、ここでは音の世界、声の世界でのマスキングのことに絞ります。
あなたは部屋でテレビを観ていました。
テレビをつけているときには気づかなかったのに、テレビのスイッチを消すと時計の秒針を刻む音が聞こえてきます。
大きな音が止むと、他の小さな音が聞こえるようになるんですね。
で、その音がやけに気になったりする。
テレビをつけている時には気にならなかったのに・・・。
また、外にいて携帯電話で話している時、携帯を耳にあてている同じ方向(例えば左耳なら左側)からバスや電車が来ると、妨害されて通話相手の声が聞き(聴き)取りにくくなる現象もマスキングです。
自分が声を出している時には人の声は聞き取りにくくなることもマスキング現象の一種です。
そういえば、やたらデカイだけの声の人っていますよね。
そういう人は、
人の話をさえぎりたいために、わざと自分の声をデカくしている。
自分の言っていることを認めてもらいたいという心理があると言われています。声とコミュニケーションにも繋がるので興味深いですね。
耳のお掃除をしよう
まとめましょう。
と考えています。
- 音のピッチやニュアンスを細かく感じている、感知している能力がある
- 自分が出した音をこれまでのスキーマに依存せず、客観的にきちんと聴くことができる
1の場合は、他の教室やスクール、サイトでも言われていることですね。
2はどうでしょう?耳が良いミュージシャンほど良い演奏をしたり歌ったりします。
耳から入ってきた音に対して歌った場合、音程を外しやすい生徒さんほど戸惑いながら出しています。その人がこれまで培ってきた既有知識(スキーマ)がそうさせます。その結果ピッチがズレる。
バシッ!とピッチがあった時に、
その声を録って客観的に聴くことで、良い意味でビックリしてもらっています。
✅この音の高さを出しているつもりがこれまでの当たり前で分からなくなっている
✅実際に出してみた声の高さの差
を楽しんでもらえれば、耳のお掃除になります。耳のお掃除は脳のお掃除なのです。