吃音(きつおん)とボイストレーニングとの関係を知りたい方へ。
吃音(きつおん)とは、流暢に話せない、話しにくいといった症状のことです。人と話そうとする時、特に人前で話す時に出てきやすい症状です。その状態を「どもる」という言葉を使って言い表しています。
とはいうものの、どんな時にどもりやすいのかは、人によって違ってきます。また、時期によって、どもりが激しかったりそうでなかったりするから厄介です。
話しにくさという症状は、吃音の方でなくても持っていますね。緊張して言えなかったり、滑舌が悪かったり・・・。
ここ最近(2018年08月現在)、当教室に吃音関係のお問い合わせが多く寄せられています。ワンバイブスでも吃音の生徒さんがボイストレーニングを受講されたこともありますし、実際に複数名、伝える声力アップコースで受講されています。
吃音でない方は、吃音の方の話し難さを考えてほしいんです。
発している言葉が滑らかではないと自覚しているので、アウトプットできずに困っているということを。それは単なる滑舌が悪いといった問題ではなく、とても深刻なのです。
今回は、ボイストレーニングと吃音の関係を書いていくことにしましょう。
吃音は、ボイストレーニングで治るか?
ハッキリ言いましょう。吃音はボイストレーニングだけでは治りません!やはり専門家の支援が不可欠になっていきます。
症状が重くなければ、言語聴覚士の方と二人三脚で対処していきます。しかし、言語聴覚士の方の中にも吃音のことを良く知らない方がいらっしゃるのも事実です。
また、自らのポジショニング確立の為に、ボイストレーナーが安易で表面的なアドバイスをネットに書いてある。そんなケースも見受けられます。
吃音の生徒さん方に対してボイストレーニングのレッスンをした経験がある僕にとっては、
これはまずいゾ・・・なのです。
吃音を自覚している方は
- 吃音専門の機関の門をたたく
- 言語聴覚士とボイストレーナーの二人三脚で対処してもらう
- ボイストレーナーにメニューを考え対処してもらう
この3つの選択肢を考えてみましょう。
立場を変え、吃音の方に対してボイストレーナーが出来ることは何か?
- ボイストレーニングのこれまでのメニューから引き出すのか?
- ボイストレーニング以外のことと関連付けさせるのか?
ここを押さえて考えていくと良いでしょう。
吃音の割合と原因
まず、吃音がどのくらいの割合で出てくるかです。
吃音は人種や言語を問わず共通して生じる言葉の症状であることが分かっています。それでは、どのくらいの割合で出てくる症状なのでしょうか?
調査によると、発症率は約5パーセントだそうです。
5パーセント前後の子供が一生涯のうちのどこかでどもった経験があるとされています。
また、吃音を経験した人の中で約80%の人は、吃音がなくなったという調査もあります。しかし、どんな人が吃音がなくなり、どんな人が継続して症状が出ているのかは、まだ明らかにはされていません。
また吃音の症状は、どちらかというと男性の方に多くみられる傾向があるようです。(以上、2016年のデータ)
続いて吃音の原因ですが、実は原因は未だ特定されていません。
緊張や早口が原因ではありません。そのような状態で発話する人もいますが、原因はそこではありません。
また、口や舌などの発話発語器官、調音器官の障害でもありません。舌が短い人が吃音者だと思っている人もいらっしゃるようですが、舌の長短と吃音の症状とは全く因果関係はありません。
吃音、3つの症状とは
吃音には大きく分けて3つの核となる症状があります。
- 連発=繰り返し
- 伸発=引き伸ばし
- 難発=阻止、ブロック
まず、力の入らない軽めの連発から見てとれ、やがて伸発→難発へと進行するといわれています。
また、吃音の状態がかなり多くみられる時期と、そうでない時期が交替で現れることもあります。(=吃音症状の波)
連発=繰り返し
連発は語頭だけでなく、語中にも出てきます。または短い単語そのものを繰り返す場合もあります。
伸発=引き伸ばし
伸発は、単独で観られるだけでなく、連発に伴ってみられることもあります。
難発=阻止、ブロック
連発や伸発を避けようとして、構えて話そうとし過ぎてしまう。その結果、気持ちも体も力んでしまい声が出しづらくなる状態のことです。
二次的な症状
吃音は音声の中核症状だけでなく、非言語でも振る舞いとなって現れることがあります。
随伴症状(随伴行動) 難発の辛さから逃れるための対処法として行なう振る舞い方です。しかめっ面をしながら話し始めたり、足踏みをしながら言い始めたりします。
業界用語では、これを逃避行動と言います。吃音者の立場に立って考えてみると、どうにか伝えたいと思って行なっている工夫でもあるわけです。
言語聴覚の先生はどう仰るか判断できませんが、足踏みをしながら行なうことは、言葉のリズムを体感しているということから考えても、素晴らしい工夫だと。そう僕は思っています。
ところが、吃音者本人の努力を、周りの人が
こう判断して放っておくと、更に話しにくさが出てきてしまうんです!
そして、次第に話すことを避けてしまう回避行動に移ってしまいます。
回避行動 話しにくさに伴い起こる二次的な症状に対して、診断や判断が間違うと、吃音の症状がさらに悪化してしまいます。そうすると話すのを避けるようとする行動に出ます。
吃音への対処、吃音の方への対応
ここでは、吃音症状の出ていない方に対してお話をしていきます。
吃音者のマネをしないこと
小学生3年4年生の頃でした。今思い出しても、申し訳なく胸が痛むのですが、僕はあるクラスメートの吃音を面白半分の気持ちで真似てしまった。そんなことがありました。男の子で連発を繰り返して出している感じだったと記憶しています。
吃音者の真似をすると、真似をした本人も吃音が移ってしまいます。
いえいえ、それよりも何よりも吃音者の気持ちを考えた時に、「真似をする」。これは決してやってはいけなかったことなのです。Mくん、本当にごめんなさい。<m(__)m>
吃音者でない方の「あー」「えー」を考えること
この意味のない、言いよどんだ表現のことをフィラーと言います。吃音を考える時にはフィラーとの関係を考えることは、重要なのです。
よく、話しことばのボイトレや昔からの話し方教室では、
と、指導されている現場があります。う~ん・・・、その方法は古いんです。吃音者にそのように指導するのは言語道断でしょう!
何故か?
言葉のリズムを考えていないからです。先ほどの随伴症状(随伴行動)のリズムと絡めて考えてみてください。
▼フィラーに関してはこちら
ボイストレーニングは吃音を理解する人を増やすためにある
吃音との関連で考えると、これが結論だとも言えます。
- 専門家も吃音の知識が不十分である事実
- 吃音=病気と安易に結びつけるステレオタイプと認知度の低さ
こういったことが、吃音のある人自身やご家族を苦しめることになってしまいます。
ボイストレーナーは、吃音の事を知って出来る活動を行なうべき
吃音のことを受け止められる人が増えていけば、吃音の人たちも、もっともっとコミュニケ―ションをとりやすくなると考えています。
それを促していくのが、言語聴覚士の方や、我々、ボイストレーナーなのではないか?
吃音の分野にボイストレーニングとして支えていく役割は、とてもとても重要だ。
そのように感じているんです。
吃音関連の教室 退級のめど
ここで吃音の生徒さんとの音声対談をこちらのページに載せておきましたので、ご視聴ください。
ところで、退級とはどういう意味でしょうか?
岩崎書店『吃音のこと、わかってください』 北川敬一[著]
によると、通級指導を終えるという意味らしいのです。卒業やクリアという用語を使わずに、「通って終える」といったニュアンスでしょうか。
そのめど、目安を引用しておきますので、関係の方はチェックしてみてください。
1_吃音についてのいろんな知識を持っていて、吃音をこわがらず、正しくわかっていること。
2_誰かに吃音の話ができること。低学年であればお母さん、高学年だったら仲間だった地、「つどい」だったり、言語聴覚士や「ことばの教室」の先生だったり。
3_吃音に関して将来的にもつながる「仲間と集まれる場(いろいろなことを相談できる場)」があり、自分のより良い将来像をもつことができること。
4_「吃音がなくなれば、自分の人生はバラ色だ」と思わないこと。吃音は悩みの中のひとつでいいんだけれども、それが100%の悩みではないということ。
5_吃音をラクにするための引き出しをいくつか持っているということ。(中略)そして、その方法が実際に使えた体験を持っていること。
6_最後に一番大事なことが、自分のことが大好きであること。
【引用】岩崎書店『吃音のこと、わかってください』 北川敬一[著]
この6つが退級のめどらしいのです。ナルホド!と感心させられます。この想いは吃音の生徒さんと二人三脚で効果が出た時点で納得に変わりますね。