今回は音声表記、音素表記と記号の使い方です。
それも
です。
このきっかけとなったのは、言語聴覚士の方と話している時でした。
失語症の生徒さんに対してのレッスンも行っていますので、だんだん気になってきたんです。
それで、やはり自分が気になったり注意を向けていることに関しては、アンテナを張り巡らしているので、こんな本にも出合いました。
今回の内容は少し難しい部分もあるかもしれません。なので必要とされている方のみ目を通して頂ければと思っています。
音声と音韻♪
音声学の3つの分野、
- 調音音声学
- 音響音声学
- 聴覚音声学
そして
- 音韻論のこと
これらは、別のコラム記事で書いてありますのでそちらを参考にしてください。
簡単にまとめると、
音声学は実際に出された音声を対象とします。
音韻論はある言語で使われるいろんな音声の中で、どの音とどの音が意味の区別に使われるのかを探してゆくことになります。
Aという言語とBという言語では、ある音は同じような意味の働きをしない場合もあります。
例えば、日本語の有声音、無声音に対して、中国語の有気音と無気音。
また韓国語の激音と平音で考えると・・・
出したい音と現実音 そして意味の違いのあるなし
ここで音素と単音の違いについて触れておきましょう。
✔音素/ /は、音韻論で出てくる用語です。
その音が異なることで、語の意味が変わってしまう。意味の違いに関係のある最小単位の音のことをいいます。
音が変わることで意味が変わる最小の対となる音をミニマルペア(最小対)といいます。✔単音[ ]は、音声学で出てくる用語です。
音声そのものの違いによって区別した音の最小単位です。実際に音声として発している音です。
音声表記として[ ]内に音声記号を入れます。
なお、音声表記のことを(国際)音声記号、国際音声字母と言ったりしますが、同じ意味でとらえて構わないと思います。
簡単に言うと発音記号のことですから。
ところで
音素って分かり難いかもしれませんね。
では、ひとつ例を出しましょう。
より良い響きをつけたり、音域を伸ばしたりする時に、レッスンで必ず出すのが特殊音素の/N/です。
いわゆる「ン」なんですが、音素で書くこの跳ねる音/N/が、その後にくる音の口構えによって違う音(条件異音)になるのです。
- [m]/「サンマ」と「サンバ」と「散歩(さんぽ)」は同じ
- [n]/「関東(かんとー)」と「慣例(かんれー)」も同じ
- [ŋ]/「日本海(にほんかい)」と「漫画(マンカ˚)」 これも同じ
※カ˚は鼻濁音表記(アクセント辞典にはこう載っています)
1.2.3は全く違った環境で/N/が持っている異なる音声です。=異音
しかし、1.の条件の元では必ず[m]が出てきます。
2.の場合は[n]、3.の条件は[ŋ]です。=条件異音
ここで必ず出てくる用語として同化現象(/N/の場合は逆行同化)、異音(条件異音と自由異音)、音の条件としてちゃんと分けて出ているという意味の相補分布があります。
難しくなりそうなのでまとめましょう。
音素とは、同じ音だと認識される音なんですが、出てくる環境によって異なって現れる音(異音)をひとつの音のまとまりとして表した記号です。
言語聴覚士の世界
因みに、言語聴覚士の世界では、
- 目標音として出したい、出してもらいたい音の場合は、音素記号/ /
- 実際に発語した音、現実音は音声記号[ ]
(/ /や[ ]の中に記号が入ります)
を用いるようですが、現状では、はっきりとした決まりは無いようです。
お互いにここら辺が判断できずに、お話していたというのが正直なところです。
業界によっての常識がどうなのか?というのもあったかもしれません。
僕は、日本語教育能力検定試験の対策講座でお世話になったI先生に伺ってみました。
日本語教育の場合
以下、I先生とのメールのやりとりです。言い回しを少し変えて、自分なりの見解を付け足して載せています。
お忙しいところありがとうございます。この場を借りてお礼申し上げます。内容の趣旨は変えていないつもりですが、もしまずかったらご一報願います。
例えば
日本語のイ段は口蓋化といい前の子音に対して調音点が硬口蓋にずれるので、細かなことをいうと異なった発音記号で書かないとならないんです。
音声記号でも簡略表記と、より細かい違いを知るための精密表記があります。
簡略表記 精密表記 口蓋化と言いつつ
調音点がズレない音[pi][bi][mi][ɾi]
[ki][gi][pji][bji][mji][ɾji]
[kji][gji]【引用】
NAFL日本語教師養成プログラム「日本語の音声Ⅰ」テキスト
松崎寛/河野俊之 著 P81より
でも、/kaki/(柿)の「き」は,いちいち口蓋化した/kj/では書きません。
母音の/u/もそうですね。日本語の非円唇を表す記号/ɯ/で書いているのは、音声音韻関係のことを学んでいる私たちだけのような気がします。
ハ行子音は、音素表記では/h/です。
音声記号だと
「ハ、ヘ、ホ」の子音は[h]なんですが、
「ヒ」は[ç]
「フ」は[ɸ]
と書くんです。
音素では、このように細かく書いたりはしません。
つまり、
- 精密に「記述」する場合は,音声記号ですが,その言語で意味に違いがなければ,音素でひっくるめて表記します。(I先生談)
破擦音で発音するか摩擦音で発音するかも興味をそそられます。
例えば、
「座布団(ザぶとん)」のザと「お座布団(おザぶとん)」のザの子音。
/dz/なのか/z/なのかですが、あなたはどちらで発音していますか?
語中の破擦音などは,個人差もあり,また,ゆっくり発音した場合とか,語中でも出現する可能性が現実にはあるのですが,音素記号のほうで,摩擦音にしておくとか。
「便宜的」か,あるいは教えるときの「規範」として扱っているのでしょうね。
発声や発音を助ける道具として使う
何とも細かなことですね。
今回は難しかったかもしれません。
はい。僕はこういった分析が大好きです(^^♪
こういったことをひとつずつ積み上げてやっていくことが、発声、発音を助ける武器となるんですね。
いつかも書きましたが、発音に気づいて良くすることで、発声や音域をも助けることが本当にあります。
レッスンや発表会、ライブで何人もの生徒さんが実証済みなんですから。