2か月ほど前、日本音声学会と日本音響学会が共催で音声学のセミナーを開きました。音声学というと難しそうだなぁ、と敬遠されがちですが、出来るだけあなたに身近に感じてもらおうと記事にしています。
音声と音響は切っても切れない繋がりにあります。2つの学会がコラボしてこのような講座を開くことは、我々ボイストレーナーにとっても、勉強探求のチャンスです。といっても運営側の実情は大変です。予算だ、何だかんだで・・・。お察しいたします。
2年前から音声学会の普通会員として所属、諸先生方からいろいろご教示いただいております。
今月(2019年06月)のブログの記事は、ちょっとアカデミックな内容が続くかもしれません。
▼日本音声学会について
▼日本音響学会はこちら
一般社団法人 日本音響学会 ― The Acoustical Society of Japan ―
その模様を書いていきましょう。
第29回音声学セミナー「音声の録音と聴取の基礎」♪
ここで、音声学の基礎についておさらいしておきましょう。
▼音声学3つの分野とは
場所はこちらで・・・。
ドン!
はい。早稲田大学の
ドン!8-B107 (8号館地下1階)の大教室で行なわれました。2か月ほど前なので、梅や桜が咲いてましたねー。🌸
今回は、「録音」と「聴き取り」のことについてです。録音というとレコーディングを思い浮かべますが、レコーディングブースでレコーディングした「その声」だけが対象なのでしょうか?
もっと普通の条件の元で録った「その声」ではダメなのでしょうか?
CDなどの商品や作品、またボイスサンプルなどのプレゼン資料を作ることだけを目的にレコーディングするのではなく、もっと広い意味での「レコーディング=録音」があっても良いのではないか?
そのように感じたセミナーでした。
いろいろある聴き方♪
「きく」という能動的な行為は聞く(hear)、聴く(listen)、訊く(ask)とあり・・・といったお話はこちらからどうぞ。
今回は「聴く」行為でも対象が違うよというお話です。「音楽を聴く」それではなく、
人の話している音声を録音、どのように研究していくか?
といった内容でした。そこには必ず「記録」するためのレコーディングが必要になりますが、ここでは音楽のレコーディングではありません。「音声の聴き取り」といった意味で扱っています。
なお、「聴き取り」については大きく2種類があり、今回は「聴取」の方です。
【聴取と聴解】
聴取とは、音声レベルや句・文レベルなどの聞き取り。外面的聞き取りと呼ばれる。
聴解とは、発話内容を理解し、また話者の意図や感情などを瞬時にくみ取ることを指し、内面的聞き取りと呼ばれる。◆引用◆ 泉 均氏 著 日本語教育能力検定試験実戦予想問題’14 解答・解説編P.138
音声聴取研究と聴覚研究
同じ「聴く」という行為でも
聴覚を研究する先生と音声を研究する先生では興味の対象が異なります。
ボイストレーナーは、どちらかというと音声の側に寄りがちですが、聴覚を研究してみるということもアリなのかもしれません。これはもう、聴覚音声学の世界になってしまいます。
まず人間の耳から入って音声にするという行為を考えれば、聴覚の研究対象も面白いと言えるでしょう。
津崎 実 (京都市立芸術大学)先生によれば
【音声の聴取の基礎 第29回音声学セミナー pdf版より引用】
聴覚研究者は機材や数値の細かいことが気になります。それには深い意味があります。但し,盲目的に彼らの言いなりになる必要はありません。
聴く条件を考えよう
音声の研究や実験というと、別に部屋を構えその中で行なう。こんなイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれません。
例えば、リハーサルスタジオのようなところ、防音収音が施されているブースなどです。言い方を変えるとアカデミックな分野では「実験室」という呼び方でしょうか。
以前、室長も自分の耳を耳鼻科で検査してもらった時は、防音収音のブース内に入り、ヘッドフォンを耳に当てノイズや周波数チェックをしました。
ここでは人工的に何かの条件を付けないとならないでしょう。実験を行なうにあったっての状況づくりと言い換えてもいいでしょう。
だからといって、ここで得られた値が正確とは言い切れませんよね。何故なら聴取する目的によって条件を変えてもよいからです。
音声の研究は日常の生活の中で起きていることが対象です。そこに音声知覚としての研究材料があることは、ご存じだと思います。ただ、日常場面は複雑な要因が絡んでいますね。
たとえば、先ほど例に挙げたノイズです。日常生活をしていると、周りはノイズだらけじゃないですか!
ノイズのことについては、日常生活の雑音、人の声が雑音になるのかどうかも含めて書きたいことがたくさんありますので、別の機会に致しましょう。
自然音声と合成音声と分析合成
音声知覚研究は日常生活の場面で起きている音声現象を調べるのが究極の目的です。なので自然音声を用いることが正しい選択です。
果たしてこのように言い切っても良いのか?
と、疑問を投げかけています。
最近の録音技術(レコーディング)は、再現性は高まっています。一方、そのサンプル
特有の現象しか観察していない可能性も否めません。
そこで、自然音声に基づいた特徴を量として限定的に変えられる分析合成系を第3の選択肢に挙げてみます。これは、自然音声の良さと合成音声の良さを兼ねている可能性があるそうなのです。
ブレンドさせる(そう簡単にはいかないんでしょうが)ことで良さを出すわけですね。
【津崎 実 (京都市立芸術大学)先生pdfレジュメより一部引用】
ただ,下手をすると両者の悪さを併せ持つ危険性もあります。
とも仰っています。
聴覚系vs音響系
音響系とはオーディオに代表されるようなもの。お仕事でいうと、
音楽録音分野
- レコーディング・エンジニア
- マスタリング・エンジニア
舞台音響、設備音響、映像系
- PAエンジニア(SRエンジニア)
放送系
- MAミキサー
- リダイレクト(音響効果)
オーサリング関連(動画、画像編集)
聴覚の入口となるのは人間の耳です。これは性能の良い音響系とは全く異なる特性を持っていといってよいでしょう。
性能の良い音響系は線状形性が高いのです。性能の良い音響系の出力は入力に比例するという意味です。
しかし、聴覚系は非線形性であるといわれています。健康の状態できちんと機能する聴覚系(耳)の出力(聞こえ)は、入力に比例しない非線形なのです。この非線形性があるからこそ「耳が良く聞こえる」という状態が整うということを仰っていました。
どの世界でも理想の値≒絶対値があります。人の知覚にとっては、絶対値よりも相対値(相互の関係性)が重要である場合が大半です。
まとめ
最近ではスマホのマイクもかなり発達している状況です。また、一昔前より気軽にレコーディング出来る状況です。ということはレコーディング技術を知らない一般の人たちは、ノイズのある環境の中で録音する機会が、以前より増えているということになります。
この状況をどうとらえ、ボイトレのレッスンに繋げていくのか?です。