前回の「ボイトレでインナーマッスルを使えるようにする」はいかがでしたか?
今回は「舌のインナーマッスル」についてお話していきましょう。
え?インナーマッスルって、身体の深いところにある筋肉のことを指すんじゃないんでしょうか?
はい。その通りです。インナーマッスルとは、身体の奥にある関節や内臓を支えるための筋肉群だということは、前回も触れました。
さて、最近、舌の退化が著しいと言われています。
舌の退化とは、舌の力が衰えてくることをいいます。唇は退化する(唇音退化)し、舌も退化しているなんて、日本人の発声と発語はどうなってしまうんでしょうか?
今回は舌に特化した内容でお届けいたします。あなたの舌の使い方、間違ってませんか??
ボイストレーニングは舌のトレーニングが大きな一つの柱となる♪
ボイストレーニングで舌のウォーミングアップを行なうメニューで有名なものがあります。
タングトリルと言われているこのメニュー。まず目的をおさらいしておきましょう。
- 舌のリラックス
- 声帯のウォーミングアップ(外喉頭筋と内喉頭筋の柔軟性)
- 音の高さにあった適切な息の量が吐ける
- 歯茎を調音点とする子音の滑舌をよくする
これらが目的でしたよね。ところが・・・、です!
このタングロールが出来ても、別メニューであることが出来なければその効果は半減してしまうどころか、かえって滑舌が良くならない場合も出てくるのです。
何故こんなことが起きるのでしょうか?
あなたの舌の状態をチェック
ここで質問です。
あなたは口を閉じている状態の時、あなたの舌は口の中のどの辺りにありますか?
- 上の歯茎から上あごの後ろまでべったりくっついている
- 舌の先だけが上の歯茎についており、中から奥舌は上あごについていない
- 下の歯の後ろ側に軽くのっかっている状態
- どこにもついていなくて宙に浮いているような状態
さぁ、口を閉じたときのあなたの舌の状態は1.2.3.4のどれでしょう?
口を閉じた場合の舌の位置はこれが自然な状態
Aを選んだあなた。
この状態が口を閉じたときの正常な舌の位置です。つまり舌は前からほぼ後ろまで、しっかりと上あごにくっついている状態が正常だということになります。
舌の先端~前舌が上の歯から歯茎あたりにあり、前舌~中舌~奥舌にいくにつれて上あごにバキュームのように吸着しているような感じがするならば、あなたの舌の状態は自然だといえるでしょう。
つまり、舌全体が調音点である歯茎、歯茎硬口蓋、硬口蓋、軟口蓋に張り付いている感じなのです。
前位舌
Bを選んだあなた。
舌端、前舌が上あご、つまり上の歯茎から歯茎硬口蓋辺りにくっついてはいるんですが、中舌が硬口蓋に、奥舌が軟口蓋に張り付いた感じになっていない。空洞が出来ている前位舌という状態の人です。
この状態の場合、舌が広がってしまう傾向にあります。
傾向として、歌っている時に余分なところに力が入り、喉声になってしまう人や、一生懸命に歌うほど姿勢が悪くなってしまう。もっと悪化すると首の骨まで曲がってしまう。そんな人もBの傾向にあるらしいのです。
- ナレーターの方で、発話を開始し、気づいたらマイクにガブリついていたww
- 歌のさびで高音域を出すと、いつもせき込んでしまうww
そんなあなたもこの前位舌の傾向にあるのでは?と推測します。
低位舌
Cを選んだあなたは、低位舌という状態です。
舌の筋力がないため、口を閉じたときでも、舌端は下の歯につきますが、舌全体が上あごの調音点にくっつきません。
よく、母音の発声を行なうときに、
舌先は下の歯の裏側に軽く添えておきましょう。
このように教わったあなたもいるかもしれませんね。それはそれで間違ってはいません。ただしこれが適用できるのは母音の[a]だけで、[i][e][o][ɯ](共通語の「ウ」)の場合、舌は盛り上がりますし、出身地によってもかなり舌の使い方が異なりますので、生徒さん別にチェックしなければなりません。
低位舌についての記事は、こちらでも参照することができます。
または、舌が口の中でどこにもついていなくて、宙ぶらりん状態の人もいるかもしれません。
これがDを選んだ人です。
このような状態の人は、舌が柔らかいと思いがちなのですがそれは勘違い。舌の筋力が極端に低下した例といえるでしょう。
まとめ:前位舌や低位舌はボイストレーニングのメニューで改善できる
正解は A でした。
そうでない人は、残念!ちょっとびっくりしましたか?
B、C、Dのタイプのあなたは、今すぐ治しましょう!これらの状態だと、
- 鼻声(鼻腔共鳴ではなくよろしくない鼻にかかった声)
- 口呼吸
- 歯ぎしり
- TCH(上下の歯を無意識にかみ合わせてしまう現象で、肩こり等の原因にも)
- 睡眠時無呼吸症候群
- その他呼吸器系の障害
- 首が前に出て姿勢が悪くなる
このように「よろしくない状態や病気を引き起こす元」ともいわれているからです。
口を閉じた状態がAの状態が習慣化されていると、口を開いてタングトリルをやった時も、効果が期待でき、目的に添った練習ができるのです。ところが前位舌や低位舌の状態でタングトリルの練習を行なっても、効果はあまり期待できません。
別の言い方をすれば、タングトリルが出来ない人は、口を閉じた状態から確認しないとならないのです。
Aの状態を体感してから(舌の筋肉をつけてから)口を開け、タングトリルの練習を行なうのです。滑舌練習はそれからです。
スマホ依存の生活が首が前に出て姿勢を悪くし、低位舌や前位舌に繋がったのかどうかは、今後の専門家の研究に依るところが大きいでしょう。
でもご安心ください。前位舌や低位舌、舌がお口の中で宙ぶらりんでも、よほどの症状でない限りボイトレで治ります。
「舌のインナーマッスル」という書き方をしたのは、このような理由だったからなのです。
【参考】
篠原さなえ 著
『日本人のための声がよくなる「舌力」のつくり方 声のプロが教える正しい「舌の強化法」』
㈱講談社・ブルーバックス